
【前編】わたし流「関係性強化」セオリー
~MTの関係性を高める感情のいかし方~
国内外での資材調達と国際取引事業を通じて、日本のものづくりを支える三菱電機トレーディング株式会社(MT)様。人と心のつながりを大切にする「強くて優しい人間企業」を経営ビジョンのひとつに掲げ、人材育成や組織開発に取り組まれています。
今回、「感情」と「関係性」に着目したマネジメントへの転換をはかるため、アイズプラスが開発・提供するEQ(感情知性)プログラムを実施いただきました。
感情を活かしたマネジメントとはどのようなものでしょうか? 関係性を高めることでチームに現れる変化とは?
MT代表取締役社長・瀬尾忠生様と取締役総務部長・井上博史様に、関係性向上のヒントとEQプログラムへの期待についてうかがいました。
(インタビュアー:アイズプラス代表 池照佳代)
※以下敬称略
Q1.私にとっての関係性とは?

池照: 2022年9~10月にかけて、一般職層の方々約380名にEQⅠ(行動特性)検査の受検とeラーニングの受講をいただきました。また同年10月には、管理職の方々100名にEQ×関係性向上研修の1日目を受講いただき、2023年2月に2日目を予定しています。
みなさんとても意欲的で、全社的にEQトレーニングに取り組まれている熱量を感じています。豊富なマネジメント経験をお持ちのトップのお二人にも、ぜひ関係性強化のヒントについてお話しいただきたいと思います。
まず、ご自身にとって関係性とはどのようなものですか? 職場や社会における関係性、成果創出との関連についてお聞かせください。瀬尾さん、お願いします。
瀬尾: 職場の関係性には上司と部下の縦の関係と、同僚との横の関係があります。米国のリーダーシップ論の権威ジョン・マクスウェルは、「人材によって組織の可能性が決まり、人間関係によって組織の意欲の高さが決まり、ビジョンによって組織の方向性が決まり、リーダーシップによって組織の成否が決まる」と述べています。組織の意欲の高さを決めるのが人間関係ということですね。
自身の経験からも、職場やチームの関係性の良し悪しがパフォーマンスに大きく影響すると感じています。行動は感情によって左右されるので、関係性が良ければ成果も上向く、正の相関関係があるといえますね。そして関係性はチーム内に伝染します。異動や転勤する部下には、新しい職場での関係性づくりは、初日、最初の1週間、最初の1カ月が肝心だよと伝え、自分もそれを意識するようにしています。
池照: 具体的にはどのようなことに気を付けていますか?
瀬尾: 初日に自分から明るくあいさつする、声をかける。最初の1週間に行う面談で、部下の生い立ちや仕事での成功体験、悔しかったこと、悲しかったこと等を丁寧に聞きます。そして私自身の話も伝えるようにしています。マネジメント経験の中で、安心して自己開示できる信頼関係がなにより重要だと気付きました。
池照: 安心して自己開示できる関係性、まさに感情のマネジメント力が問われますね。ありがとうございます。井上さんは関係性や関係性づくりの第一歩について、どのようにとらえていますか?
井上: 関係性とは人と人とをつないでいる状態を示し、成果は当事者間の関係性の質にかかっていると思います。関係性の質が良ければプラスに働き、悪ければ成果につながりにくい。関係が悪いわけではないのに苦手意識を持ってしまったり、ちょっとしたことで関係が良くなったり、単純にはいかない難しさも感じます。
これまで何度か転勤を経験していますが、どのような役職であっても勤務初日は緊張しますよね。そのような中でも、やはりファーストインプレッションは大切です。できるだけ自然体を心掛け、身だしなみや身に着けるものも含めて、相手にポジティブな印象を持ってもらえるように努めています。ある程度、お互いを知った段階で良い成果が出せるよう、共通点を見つける、相手を知ることからいつも始めています。
瀬尾: 共通点を見つけることは円滑な人間関係への第一歩だと思います。出身地を聞いたら、そこに勤めたことがあるとか、行ったことがあると伝える、音楽が趣味であれば好きなジャンルを聞いてみる。積極的に共通点を探していく入り方ですね。
池照: 私も数回転職していますが、上司の方からのあいさつや声がけは本当にありがたいですよね。シャツの色が同じだよ、私と同じノートを使っているね、と小さな共通点を見つけてかけてくださった言葉に、緊張感がどれほど和らげられたか。言葉や表情に何度も助けていただいたことを思い出しました。
Q2.関係性向上によって得られるメリットとは?

池照: 続いて二つ目の質問です。関係性の向上によって得られるメリットとはなんでしょうか? 関係の変化も含めてお聞かせください。
瀬尾: 関係性は会社の一番のベース、土壌です。関係性が向上すると心理的安全性が高まり、相談しやすく助け合い支えあえる、働きやすい職場になると思います。
思い当たる経験を3つ紹介します。まず、若い頃に感情を素直に出して関係性が向上した経験です。課長さんと他部門から異動してきた方との折り合いが悪く、二人が懇親会の席で言い争いを始めました。私は「楽しいはずの席でなぜ?」と悲しくなり、思わず涙してしまったんです。すると、次の日から二人の関係性に前向きな変化が見られるようになりました。感情を正直に伝えたことがプラスに働いたのかなと感じました。
2つ目は、良い関係性を維持できなかった経験です。海外赴任先で複数の部下を昇格させた際、昇格から外れた人から不満の声が出たのです。前年度に給与を引き上げていたことや昇格のタイミング(順番)などを本人に説明したのですが、文化の違いもあり不満の解消に至らず、関係性を改善できないまま日本に帰任することになってしまいました。今にして思えば、昇格から外れる人の気持ちに思いを馳せ、根回しをしておくべきだったと悔やまれます。
池照: 違う国、違う価値観の方とともに働くにあたって、自分の価値観を表明しながら、相手の価値観を理解し歩み寄る。とても大切ですし、難しい部分でもありますね。
瀬尾: 3つ目は、関係性が大きな成果につながった経験です。転勤2週間後に熊本地震が起き、工場が壊滅的な被害を受けました。復旧に3ヵ月必要との見立てに対し、お客様のために1ヵ月で操業再開すべしとの社長の鶴の一声で、従業員が部門を越えて団結し、結果1カ月で再開を果たしました。もともと関係性の良い工場でしたが、その経験でさらに関係性が深まり、現場の人とも垣根なく話せるようになりました。

池照: お客様のお役に立ちたいというひとつの大きな想いがあって、そこへ向けて求心力を高め関係性が作られていったのですね。ありがとうございます。井上さんはいかがですか?
井上: 私も関係性の質が向上し、成果やメリットにつながったという体験があります。
まず、同業他社様と一緒に作った新会社に赴任した時の話です。当初はお互いの拠点で業務を進めていたのですが、クロスした人事異動が始まり、私が先方の拠点へ一人異動することになりました。大変緊張しましたが、自分を知ってもらうしかないと開き直って、業務に励みました。すると、そちらの労働組合の方々ととても良い関係ができ、そこから自然と他の方との信頼関係や成果につながっていきました。
次に、過去の経験が入社してからの関係性づくりに役立った例です。私は学生時代、団体競技のボート部に所属しており、一つの目的にむかって全員でがむしゃらに取り組んでいました。新入社員として工場の総務部門に配属された際、製造現場の方々に同じような気質を感じて、非常に仕事がしやすかったのです。管理職の方と話す機会が増えてからは、戸惑いや苦手意識もありました。そこは上司、先輩の方々にいろいろと教えていただきながら、少しずつ慣れていったという感じですね。
最後に、瀬尾さんのエピソードと重なりますが、東日本大震災で被災した工場の復旧支援に携わった時の話です。私は約30名の復旧支援チームの事務局として現地に入りました。被災現場を目の当たりにして、なんとしてでも復旧させなければと思いました。何百人の人達が一丸となって復旧作業にあたり、製造ラインが再稼働できた時は、仲間と抱き合って喜びました。チームの人数が多い場合は、目的がシンプルであるほど関係性が高めやすいのかなと感じました。
池照: お二方とも、復旧支援では大変なご経験をされたのですね。貴重なお話をありがとうございます。
関係性をつくるためにまず自分を知ってもらう、これは上司の立場だと気恥ずかしさや難しさがあるかもしれません。ただ、心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンドソンは、「心理的安全性を作るのはまず上司やリーダーからの自己開示が大切」と述べています。そこが第一でなければ心理的安全性は作れないと。感情をどのように出していくか、自分から働きかけてどう知ってもらうか、自分らしい自己開示=OPENNESS(オープンネス)の方法を持つことも大切ですね。
Q3.折り合いが悪い相手との関係性の作り方

池照: 私たちは同僚や部下と関係性を作るためにさまざまな働きかけや自己開示をします。その上で、どうしても合わない、折り合いが悪いと感じてしまうことは、人間なら誰しもありますよね。研修参加者の方からもご質問があったのですが、お二人はそのような時どうされていますか?
瀬尾: 折り合いが悪いと感じても、他の人と同じように接することが大事だと思います。私も若い頃は強い言い方をしてしまったり、逆に衝突を避けたために壁ができてしまったり、苦い経験がありますが、一緒に仕事をしている内にいつの間にか関係が改善しているケースが多かったように思います。
井上: 私はそのような時、先に話しかけるようにしています。若いころは極力接点を持たないようにと思ったこともありましたが、上司という立場になると避けられないので、できるだけ自分から話しかけていくようにしています。変に気負ったりしなければ、少しずつ普通に関わり合えるようになるのではないでしょうか。
池照: 折り合いの悪さはあくまで自分の主観ですが、そう感じる自分がいるという事実をいったん受け止めることは必要ですね。私は、そのような時はランチに誘うなど、自分を知ってもらう機会をつくるようにしています。片方からのアプローチだとしても、続けることで関係性は創られていきます。人間なら誰しもある苦手意識、しかしチームとして成果を出すために互いに歩み寄れることでもあります。歩み寄りのスタートは自分からです。
最後に、今回EQトレーニングを受講されている社員のみなさまに向けて、メッセージや励ましのお言葉をお願いします。
瀬尾: 職場やチームが持つ課題は様々だと思います。知識としてではなく、自分の職場でどのように活かすかという視点を持って、研修を受け、感情や関係性を活かしたマネジメントを自分のものにしていってください。
井上: 今年度は初めての試みとして、部下との面接に上司・部下双方のEQテスト結果を使用しました。理解を深めあう機会としても活用していただきたいです。1on1の面接やチームマネジメントを実践する中で、いろいろな疑問や質問が出てくると思います。2月の研修でその解決のヒントを得て、次につなげてほしいです。
時間はかかると思いますが、管理職の皆さんは自分なりのやり方、自分の職場やチームにあったやり方をつくっていってほしいと思います。
池照: 2月の研修では、参加者のみなさんからいただいたご質問をベースにケーススタディワーク等を進めていきます。感情を活かし、管理職の皆さんが関係性構築に前向きに一歩を進めることをご一緒していきます。私もとても楽しみにしています。ありがとうございました。
アイズプラスからのご紹介
アイズプラスでは、EQ(感情知性)を人材開発、組織開発、人事制度設計に導入し、
以下のような組織目的達成のお手伝いをしています。
・企業理念の策定、浸透支援
・リーダーシップ開発/リーダー育成
・ダイバーシティ&インクルージョン/多様性施策構築、浸透支援
・エンゲージメント施策、タレントマネジメント施策構築と浸透支援
・「心豊かに働く」をベースとした人事制度の構築
・・・ 他