楠山健一郎さん(株式会社プリンシプル代表取締役)インタビュー・EQでマネージャー層の「人を育てる力」を伸ばす

楠山健一郎さん(株式会社プリンシプル代表取締役)インタビュー

〜EQでマネージャー層の「人を育てる力」を伸ばす。〜


楠山健一郎さん(株式会社プリンシプル代表取締役)インタビュー

EQでマネージャー層の「人を育てる力」を伸ばす。


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会社の規模が社員50名を越えた辺りから、経営者の想いや理念が浸透しにくくなった、メンバーの一体感や和気あいあいとした空気が薄れてきた、離職者が目立つようになった…などと感じているスタートアップ企業や成長中の企業の方に、ぜひ読んでいただきたい記事です。

楠山さんが株式会社プリンシプルを創業したのは2011年。デジタルマーケティングの分野でデータを活用したコンサルティングサービスを行なう同社は、大手企業を含む300社以上のWEBマーケティングパートナーとしてクライアントのビジネス成長に貢献し、順調に実績を伸ばしてきました。

そんなプリンシプル様の現在の課題の一つが「人を育てる」企業風土づくり。その一環として、弊社は2021年夏、マネージャー層に対するマネジメントスキル向上のためのEQワークショップを実施させていただきました。実施後、「社内の様子が変わった」とおっしゃる楠山さんに、弊社代表 池照がお話を伺いました。


「人を育てる」会社に本気で変えていくために

池照: 今回、弊社のEQワークショップを導入していただいた背景を改めてお聞かせいただけますか?

楠山さん: 私がプリンシプルをつくったきっかけは『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)という本です。その中で最も重要視されているのが「人間としての原則」。誠実さ、素直さ、人を尊重するなどの「人格」のことです。事業として何をするかよりも、誰と一緒に働くか。それを大切にできる会社にしようと思って創業しました。

しかし会社を立ち上げ、軌道に乗せるまでは、外資系企業の手法のように、優れたプロフェッショナルを集めてきて仕事を任せ、成果を上げてもらうという形でやってきました。その分、人を育てるとか、未経験者を育てて戦力にしていくことはほとんどやれなかったんですね。

こうした中で、新しく入った人が次第に疲弊していったり、健康状態が良くなくなったり、離職する人も増えてきたりして、いつの間にか私たちが理想としている状態とずいぶん乖離してしまった。私自身も以前働いていた外資系企業での、いつも数字を追いかけて競争して、収入は増えていくけれど幸福感を感じられないという状況になっていました。もっと幸せな人生を歩みたいと思ってこの会社をつくったのに、結局パフォーマンスドリブンな組織にしてしまっていました。

この状況を何とか突破したいと思い、今年の3月にマネージャーの人選基準を「人の育成」に置いて、本気で人を育てよう、自分たちが採用した人を本気で定着させようと決めました。マネージャーの定義を「メンバーの育成と開発を通じて部署目標を達成する」とし、個人的なパフォーマンスで成果を上げることよりも、人の育成力や部下の力を生かすことをマネージャーのスキルとして重要視することにしました。

そのスキル向上の一環として、池照さんのEQワークショップを取り入れたという背景です。今の会社の状況から見ると「投資」ではありますが、そのくらい重要だと考えてのことです。


パフォーマンスドリブンの組織に足りないもの

池照: 優れたプロフェッショナルを採用して成果を出してきた、というのはEQの組織診断にも如実に表れていますよね。「セルフエフィカシー」という、自分達の実績を肯定的に捉え、自信を持つ項目のスコアがダントツに高い。こんなに高い集団は私も初めてかもしれません。

楠山さん: 今まではそれで実績を作ってきました。業績も伸びていたし。

池照: 皆さん「達成動機」も「気力充実度」も高い。つまり粘り強く事業に向かい、基本的にとても元気なんです。もちろん時々、少し疲れてるな…と感じることもあると思いますが、仕事の場では常にエネルギッシュで、これを絶対に達成する!と強い思いを持って事業を引っ張っている。こうした項目のスコアは、リーダーの方々はもちろん高くて良いんですが、一方でそうでない方々も組織には存在し、役割を担っているということに留意する必要があります。

楠山さん: そうですよね。パフォーマンス重視のプロフェッショナルからすると、未熟な人が来た時に「育てよう」じゃなくて「ここが足りない、プロマインドが足りない、ついて来られないなら仕方がない」となりがち。でもそれでは「温かみ」がないですよね。

実は私自身のEQアセスメントでは、この組織とは真逆のスコアが出ているんです。たぶん自分自身の感情をごまかして、優秀な人たちに囲まれてとにかく成果を追求して…という組織は私がつくってしまったんだと思います。本来私は、皆を巻き込んで楽しくワイワイやって、誰もこのチームから落としたくないという人間です。だから人が辞めていくのは非常に苦しいですよね。人間性を高めよう、会社と個人がWin-Winになろうという理念を掲げて、それに共感してくれる人もたくさんいるのに辞めていってしまうのは悲しい。なぜ辞めてしまうのか、今回のEQ研修でその謎解きができた感じがしています。

逆に言うと、これからは会社全体が人に優しく、未経験者を育てて定着させていって、一人一人をケアしてあげられるような会社にしたいという思いがクリアになりましたし、その方向は正しいと思っています。それが結果的には組織のパフォーマンスを高め、成果を上げることにつながるとも思っているので。



EQワークショップ後の社内コミュニケーションの変化

池照: 今回のワークショップを経て、社内に何か変化はありましたか?

楠山さん: けっこう変わって来ています。エリスさんという女性マネージャーがいるんですが、彼女もずいぶん変わりました。もともとは「私はエンジニアです、職に生きます」というタイプでしたが、ワークショップの後、自分のチームからMVPが出た時に「私のチームから出てすごくうれしい。○○さん、大好きです!」みたいな感情を皆の前で発言していて驚きました。チームの中で、「もう一度皆で『7つの習慣』を読もうよ」と提案したり、ムードメーターも積極的に使っているようです。

池照: ムードメーターは、その日の自分のエネルギーレベルとフィーリングレベルを10段階の数値で表現するというEQのツールです。実践しやすく有効なので、ワークショップの中でも丁寧にお伝えしました。

楠山さん: 他のメンバーからも「今日はエネルギーレベル6・フィーリングレベル6です」とか、「今日も5・5です」などと聞こえてきますよ。自分自身の状態を自己開示しています。

池照: すごい!定着が早いですね。

楠山さん: やはりムードメーターのような、分かりやすくてデイリーにできるものがあると取り組みやすいし、おそらくやってみたら手応えがあるから続いているんだと思うんです。

池照: そうなんですよね。メンバーがいつも100%万全な状態で仕事に向かえるわけではなく、皆それぞれに家庭やプライベートがあり、何かが気に掛かって仕事に集中できないということもあります。そういう状態も含めて私たちの仲間なんだと受け入れる土壌をつくり、チームで補完し合いながら成果のために行動できるのが、このムードメーターの良い所だと思います。


メンバーの本音を引き出す「自己開示」

池照: 「人を育てる会社にする」と決めた楠山さんが、若い方や新しく入社する方に対して、行動や声掛けをこんなふうに変えていこうと意識していることはありますか?

楠山さん: 私が最近試しているのは「自分の弱みを出す」ことです。勇気が要りますが、「私はマネージャーの時にこんなことができなかったよ」とか「新入社員の時にこんなことは考えていなかったよ」とか。昔の自分であれば自分のやり方、経験からアドバイスしてしまったと思いますが、今はなるべくその人の目線で、その人に共感してもらえるように話すことを意識しています。私自身が相手の立場なら、そういう人の方が本音で話せますよね。このやり方が楽しいと思えてきているし、これは私の今後の在り方だと思っています。

池照: 現在、私は大学でもEQの講義を行っているんですが、若い世代の方々は感情自体はとても豊かです。ただ、その表現の仕方にかなり気を使って制御している。その制御を取り払うには、自分がまずリーダーから自己開示していくことが心と心の距離感を縮めるヒントだと思います。「話を聞いて何だかワクワクしてきたよ」とか「今の言葉で温かくなったよ」とか、「感情」を表現するから相手も「感情」で応え、それが共感につながりますから。

楠山さん: 私もそう思います。そういう心理的に安全な状態で話せることで本音が出るし、退職を未然に防ぐとか、ミーティングで自由闊達に意見を言い合えるようになる。自己開示ができる環境を、常に組織として持てるようにしていきたいですね。

距離感と言うんでしょうか、組織が50人以上になった辺りから、メンバーがだんだん率直に発言している感じがしなくなってきて、何の前触れもなしに、というか我々が前触れを掴めずに辞める人が増えた。理想はフラットな組織ですが、規模が大きくなるとやはり階層が必要で、私がメインで直接話すのはマネージャーという体制になると、そのマネージャーの力量によって離職率や意見の吸い上げ方は変わってくると思います。だから今回のEQワークショップで学んだように、リーダーから自己開示を意識して若い人にも意見をどんどん言ってもらえる組織が重要だと経営の観点からも思いますね。


心豊かに働ける組織づくりを目指して

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池照: 誰にでも感情があって、その感情から人は元気になったり、行動が紡ぎ出されたりします。私がEQを学び始めたのは、今までそこを軽視していたなと言う自己反省もあるんです。仕事や人間関係で行き詰まってしまったら、「自分は今どんな感情だろう?」とか「目の前にいるこの人は今、どんな気持ちだろう?」と、感情に焦点をあてることで論理的な思考だけでは見出せない人間的で感情的な部分に触れ、「人」の理解につながることを毎日実感しています。EQは、仕事のパフォーマンスを上げるために導入していますが、それだけでなく、本来は「人」を理解し、「人生を豊かにする」ものだと思っています。

楠山さん: EQを会社のパフォーマンスを上げるツールに使うのではなく、人生を豊かにするために使うというのは非常に重要なことだと思いました。私がこの会社をつくったのは人生を幸せにするためで、その手段として仕事があると思っているので、楽しく幸せな人生を歩むことの方がファーストなんです。そのために、働くことを豊かにしていく。EQを導入して生産性向上だ、KPIに落とし込んで…って、本当はそうじゃないというのは、とても共感できます。

組織づくりは大変だなと思うんですよね。50人くらいの、価値観も話のレベルも合う人とビジネスをやっていると楽しいですが、それを越えて人に任せる部分が多くなると我慢や苦しさもある。でも、やり遂げようと思っているんです。今は苦しくても、きっと楽しい時期が来るし、その楽しさは30人や50人で影響力が限られるよりも、人を育てることでもっと大きくなる。だから将来は楽しいのかなという気がします。

池照: その「苦しい」「大変だ」というのを、今の楠山さんみたいに笑いながら、ぜひ皆に伝えてください。とても楠山さんらしくてステキです。深刻にならずに、真剣に自分の苦しさと向き合い、自己開示する。すると、いろんな人が共感し、手を差し出したり、声を掛けてくれたり、一緒にやろうと集まって来るチームになると思います。


※後半は、研修に参加されたマネージャーのリアルボイス!をお届けします


プロフィール

楠山 健一郎(くすやま けんいちろう)
1996年国際基督教大学(ICU)卒業。シャープ株式会社で海外営業を経た後、2000年に当時まだ40名以下のベンチャー企業サイバーエージェントに入社、インターネット広告営業を担当する。2001年トムソン・ロイターグループに入社し、「ロイターco.jp」をロイターのオンライン戦略の貴重な事業として急成長させる。2007年トムソン・ロイター、メディア事業部門の日本責任者となり、プレジデント社と「プレジデント・ロイター」、朝日新聞社、ソネット・メディア・ネットワークス社と「ビジネス・プレミアム・ネットワーク(BPN)」を立ち上げる。株式会社オークファンの執行役員事業統括を経て、2011年10月株式会社プリンシプルを設立。2016年に米国移住しシリコンバレーに子会社であるプリンシプル アメリカを設立。2021年現地にて急成長SNS広告代理店を買収。