【インタビュー後編】日本マクドナルドのOpen Doorな挑戦
〜現場のモヤモヤは「タニモヤ」で解決する〜
参加者の声を活かし、企業と一緒につくりあげるワークショップ

池照: 全10回のワークショップのうち、特に最初の1、2回は参加者からのフィードバックを見ながら、植村さんや甲斐さんとたくさんディスカッションさせていただきましたね。弊社もそのお声を元に毎回調整しながら進めることができました。改善の視点や、参加者の皆さんから届いていたご要望についてお聞かせいただけますか?
植村さん: D&Iを推進すると言いながら、自分自身の考えがそうじゃなかったのかなと気づいたのがチーム分けです。立場の違いから意見の収集がつかなくなりそうだと思い、当初は営業メンバーのチームとオフィスメンバーのチームとを分けていたのですが、それが全体のディスカッションの幅を狭めていたことに気づきました。次の回から垣根を取り払ってチーム分けしたところ、多様性が広がったことでどんどん皆の意見が出てきたんじゃないかと思います。
現状、営業のメンバーはお客様に常に最高の店舗体験を提供するために、取り組まねばならないアクションが集中しています。一方、オフィスのメンバーはそれぞれの部署のミッションを達成するための仕事をしているので、他の部署の意見を聞く機会が乏しい状況でした。さらにコロナ禍で拍車がかかり、ディスカッションする機会自体が不足していました。ですので、今回のワークショップで横断的に他部署の人と仕事の中でのD&Iについて話せたことは大きなメリットになったと思います。
弊社では毎週水曜日に「キャッチアップタイム」としてコミュニケーションを推奨する時間が定められていますが、まだまだうまく活用できている人は少ないのが実態です。ですから今回のワークショップでは、今後キャッチアップタイムに立場の違う人と話をする時間をつくるというヒントもいただいたと思います。オープンドア・プロジェクトチームが主催してそういう場を用意するだけでも、D&Iへの意識はかなり変わるんじゃないかと思いました。
甲斐さん: 3名のアイズプラスファシリテーターからは、参加者の考えや気持ちを引き出すような質問を多く投げかけていただいたのが、ディスカッションの広がりや深まりに対して効果的でした。最初はどうしても、こちら側が意図した議論になっているべきと期待してしまうこともありましたが、皆のディスカッションの様子を見ている上で考えが変ったのです。私達自身が、議論の多様性を理解し、柔軟になれたことは大きかったですね。
池照: 私がとても印象的だったのは、参加者の方からいただいた「目的をもっと明確にしよう」というお声です。皆さん発話量が多く、お話は非常に盛り上がるのですが、「自分自身のオープンドアは?」というディスカッションテーマに対し、話が広がりすぎていると感じる場面もありました。そんな時にいただいたお声でしたので、次から「このワークショップの目的は何なのか、今何をやっているのか」を意図的に頻度を高めてリマインドするように改善を加えました。すると、話が一旦拡散しても、リマインドでちゃんと目的に戻ってテーマの本質を追求するようになりました。プログラムの質を高めていく上で、このフィードバックの共有は非常にありがたかったです。
多様性を追求する取り組みが、さらなる多様性を企業に育む

池照: 今回のワークショップにご参加された方々の、その後の反響やコメントなどはありますか?
植村さん: 実施後のアンケートでも、今回は自由意見欄に多くのコメントが書かれていました。自己開示できたことの表れですし、私たちも次に活かしやすいと思っています。
甲斐さん: 厳しい意見もちゃんと書いてくれていました。中には「自分の評価につながるんじゃないかと思い、喋れなかったです。いまだに少しそう思っています」などというコメントもあり、でもこれを書ける自己開示ができたことは、とてもプラスじゃないかと感じています。
池照: オンラインではありますが、お忙しい管理職の方を一堂に集めて行う3時間以上のワークショップの実施はかなり厳しかったのではと思います。ですが、各チームの発表を聞いた時に印象的だったのは、皆さんの「まだもうちょっと話したかった」、「もっとじっくり聴きたかった」という声です。
皆さんが、同僚である仲間の課題解決や価値創造に、本気で向き合う前のめりなご参加姿勢がすごかった。その「もうちょっと話したかった」は、皆さんがこのテーマを自分ごとにし、それがアンケートにも表れたのだと思います。
甲斐さん: その「もうちょっと話したかった」を、あれから自主的に続けているグループも出ているんです。
池照: 「タニモヤ」を続けている方がいらっしゃるんですね! それは嬉しいです。
甲斐さん: 今回のワークショップを行ったことによって、今後もし何か仕事上でモヤモヤを抱えた時に、「じゃあこの人と話そう」とか「○○さんの所へ行こう」というようなつながりが生まれるのではないかと思います。
池照: 「タニモヤ」は意図的にぜひ使い続けていただくといいですね。
植村さん: 私は、管理職がほぼ全員参加できたという所が、非常に意義があったと思っています。社内研修やワークショップでよくあるのが、実施している期間に異動などでメンバーが入れ替わり、同じプログラムを全員同じトーンで一斉に受けることがなかなか難しいんですよね。今回の場合は、全く同じワークショップを管理職全員が短期間に受けられことが大きな成果です。もちろん、これですぐに何か急に変わるというわけではないですが、参加者が何かしら得るものがあったと思っています。
池照: そうですね、こういうことがやれるんだ、やったんだということが管理職の方々の共通言語になれば、この先いろいろな課題に向かうことがあってもすでに今回の経験値があります。自分達の経験や工夫が、現場の課題を解決することに向かっていくことができます。ここ数年で、D&Iのテーマも女性活躍、民族、年齢、LGBTQ…と、どんどん変化していますよね。けれど「タニモヤ」の経験があれば、新たな課題が生まれたらモヤモヤを自分たちで言語化して、何か少しでも解決につながるアクションを起こすことができる気がします。
植村さん: 今年は社内のD&Iの取り組みが進んだという声もありますが、インクルージョンというカルチャーを推進したことによる変化を店舗のスタッフが実感するのはもっともっと先だろうと思います。その間にも社会はどんどん多様化が進み、コロナ後にさらにいろいろな価値観も増えて変わっていくので、現状で満足していては取り残されてしまいます。
今回このような機会をいただいたことで、「ジェンダー以外にもインクルージョンについて考えないといけないよね」という社員の気持ちの変化と、今後の変化に向かっていくスタート地点に少しでも立てれば嬉しいです。一人一人が自分らしく働き、輝けるD&I推進を引き続き社員の皆さんと話し合いながら進めていこうと思います。
甲斐さん: いまだにD&Iでは女性活躍推進の部分が大きなテーマである中で、「でも女性だけじゃないよね? 他の視点も必要じゃないか?」という疑問を持っている社員もいます。そういう声を拾い上げることで、かえって属性としての女性活躍をはじめ、他の分野やカテゴリーにも発展していくように思います。
今回のワークショプで、ダイバーシティについて「デモグラフィー型(性別・国籍・年齢など属性の多様性)」だけに囚われていたと気づいた社員もいましたので、「タスク型(能力・経験・知識など実力や内面の多様性)」という視点でのD&Iにより主体的にフォーカスしていけるのではないかと思います
池照: ありがとうございます。お陰様でこのプログラムは年間を通じてご要望があります。組織として目指す姿には共感しても、行きつくためには何かしらのモヤモヤを誰もが抱えています。それぞれがこのモヤモヤを「自分」を主語にして言語化し、だれかのモヤモヤを仲間で解決していくプログラムは、多様性が進む組織だからこそ求められる機会の提供につながっているのだと思います。ぜひ、社内でタニモヤを継続いただき、そこで得た知見や気づきを、また私にもお知らせいただけると嬉しいです。ありがとうございました!
池照からの一言
ワークショップでは毎回、CEOの日色さんからのメッセージがありました。その中で私が印象に残った言葉が、“BEST SELF”です。一人ひとりのBEST SELF (自分自身のBEST)が出せるように、BEST YOURSELF(相手のBEST)を支援する、そして BEST OURSELVES(自分達のBEST)をつくる環境づくりを目指す。そのためには、起きている課題を自分ゴトとして捉え、BESTな状態やありたい姿を描き、解決や価値づくりに向けて行動することが大切です。
今回、これまで一人では作れなかったBESTな状態も、互いの個性を認め補い合いあう姿勢と、自分の思い込みや当たり前を開示して本気で議論することでそれぞれのBESTに近づいたと確信しています。誰もがもっている心や思考のドアをちょっと開けて互いの話をまずは聴きあう、これがタニモヤの原点であり、そして同時にオープンドアの精神で多様性を活かすことだと体感しました。
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「タニモヤ」ワークショップの詳しい内容については、こちらをご覧ください。
https://is-plus.jp/tanimoya
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プロフィール
植村 麦生 氏
日本マクドナルド(株) 人事本部 フィールドHR 統括マネージャー
店舗のパート・アルバイト採用と新卒・中途社員採用の戦略立案・実行を担当。
「オープンドア!チーム」に参画し、システム全体のダイバーシティ&インクルージョンを推進。
甲斐 晶子 氏
日本マクドナルド(株)人事本部 NRSオフィスHR部 マネージャー
タレントマネジメントチーム オフィススタッフ人材育成に関わる企画立案・実行を担当。
「オープンドア!チーム」の事務局担当としてダイバーシティ&インクルージョンを推進。
アイズプラスDiversity&Inclusion チーム

プロジェクトリーダー / ファシリテーター池照 佳代アイズプラス 代表取締役山野美容短期大学 特任教授

ファシリテーター浦 亜弓人事コンサルタントトレーニング・ファシリテイター

事務局福島 恵美子アイズプラス スタッフ

ファシリテーター吉田 仁史Unleash Partners 代表組織アライメントコンサルタント

プロジェクトコーディネーター生井 さおりダイバーシティコンサルタント
アイズプラスDiversity&Inclusion チーム

プロジェクトリーダー / ファシリテーター池照 佳代アイズプラス 代表取締役山野美容短期大学 特任教授

ファシリテーター吉田 仁史Unleash Partners 代表組織アライメントコンサルタント

ファシリテーター浦 亜弓人事コンサルタントトレーニング・ファシリテイター

プロジェクトコーディネーター生井 さおりダイバーシティコンサルタント

事務局福島 恵美子アイズプラス スタッフ
アイズプラスからのご紹介
アイズプラスでは、EQ(感情知性)を人材開発、組織開発、人事制度設計に導入し、
以下のような組織目的達成のお手伝いをしています。
・企業理念の策定、浸透支援
・リーダーシップ開発/リーダー育成
・ダイバーシティ&インクルージョン/多様性施策構築、浸透支援
・エンゲージメント施策、タレントマネジメント施策構築と浸透支援
・「心豊かに働く」をベースとした人事制度の構築
・・・ 他