ノバルティス ファーマ株式会社 代表取締役社長 綱場一成さん EQインタビュー

人との関わりを成果につなげる
「EQ」というスキル


ノバルティス ファーマ株式会社  綱場一成さんインタビュー


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人生100年時代のキャリア形成の指針として、経済産業省からは「社会人基礎力①」、厚生労働省からは「ポータブルスキル②」が提示されています。これらは業種や職種が変わっても通用する持ち出し可能な能力のことです。主体性や柔軟性、ストレスコントロールなどを含むこれらの能力をさらに深く分析していくと、EQ(感情知性)と密接に結びついていることが分かります。

ノバルティス ファーマ株式会社では、組織のトップである綱場一成社長自らが、仕事でも、子育てなどの私生活においてもご自身の行動の軸にEQの概念を取り入れ、今後は会社のミッションを達成する組織・風土づくりのために、社員のスキルとしてEQを浸透させていこうとする考えをお持ちです。ノバルティス ファーマ株式会社がグローバルで推進する企業文化:ICU(Inspired, Curious, Unbossed)とEQ(感情知性:Emotional Intelligence)との根本的な共通点をうまく融合させながら、社員のより良い人生の創造と能力開発、組織力の進化・向上を目指す綱場さんに、弊社代表 池照がインタビューをさせていただきました。


自己認知からスタートするEQ

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池照: 昨年、綱場さんが社内向けのビデオメッセージでEQに触れていらっしゃいましたが、綱場さんはEQについてどのようにお考えですか?

綱場さん: ノバルティスがグローバルで浸透を目指しているカルチャーは、ICU(Inspired, Curious, Unbossed)で表現されています。互いに個性を認めて活かし、好奇心をもって物事に取り組む、これらの要素は僕の知っているEQとかなり重なります。そして EQのカテゴリーでもよく出てくる「社会的能力」ですよね。それはノバルティス用語で言うと「Unbossed:アンボス」、部下と上司の垣根を取り払って共通の目的を達成する、それが社会的能力のど真ん中じゃないですか。それを考えると、私たちが挑戦しているカルチャー・トランスフォーメーション(企業文化の改革)とは、突き詰めると一人ひとりのEQの発揮によって達成されるんですよね。

それを自分なりに解釈してみました。つい2週間前にノバルティスのいわゆるシニアリーダー200名近くを対象に世界各国で実施されるトレーニングに参加しました。私はその中でタンザニアのグループに入り、1週間ほど現地の奥地で文明的なことにほとんど触れることもなくトレーニングを受けたんですが、そのテーマを振り返るとやはりEQでした。

人間は普通に社会生活を送ると、組織がおかれた複雑性と時間経過との関係性から「ソーシャライズド・マインド(環境順応型知性)」になります。人から認められたいとか、人よりも社会的地位が高くなりたいとか、給料云々とか、周囲からの反応を気にして自分では責任を取りたくないという段階ですね。これが一歩進んで、もう一つ高嶺に登って、自分自身の信念や過去の成功体験をベースに仕事を進めるようになる。ただし、新たな方法や視点を試そうとしないので、同じ環境下でないと成果が出せない、これが「セルフオーサリング・マインド(自己主導型知性)」なんです。そして3番目の「セルフ・トランスフォーミングマインド(自己変容型知性)」では、自らが変わっていくことを恐れずに自由な発想ができる。何か問題が起きても根本的な原因を探り、必要に応じて過去の経験を白紙にしてゼロから新たなものを作り出すリーダーです。ノバルティスが進めている変革は、まさに一人ひとりのリーダーシップ変革による企業文化の「トランスフォーム(変革)」といえます。

自分自身にとっての好奇心や探究心をもち、周囲を共感で巻きこみながら自らの枠を壊していく。そういう部分を突き詰められるかどうかが、セルフ・トランスフォーミングマインドと言えます。これは何かを突き詰めていくと、それもEQじゃないかと思っています。

このマインドをもって自らを改革していくには、自分の内省と言うんですか、すごく振り返らなきゃいけない。人間の言動は全てアサンプション(前提、仮定)から来ています。自分は社会から評価されないといけないとか、子どもには優しくしないといけないとか、家ではこう振る舞わないといけないとか、それは自分自身のアサンプションで、でもその奥にはどういうアサンプションがあるかというヒディング・アサンプションをさらに掘り下げてみる必要がある。それを突き詰めていくと、アサンプションは必ず子どもの頃に遡ると感じています。

池照: スイスのビジネススクールIMDの教授の方が、セキュアベース・リーダーシップという、自分の心の拠り所になるものを解きほぐすことで真のリーダーシップが出てくるというお話をされているんですが、まさにそのことだと思うんですよね。そこまで突き詰めて「この根底にある感情はどこからきたのか?」「私自身の心の拠り所になっている源泉は何か?」を子供時代からの過去も含めて振り返る。きわめて個人的な経験や思想が、思いやりと挑戦という両輪をもったリーダーシップにつながるというものですね。

綱場さんがおっしゃったアサンプションとは、「前提」あるいは「思い込み」のようなものですが、これは個人の経験とそこで感じた感情から作られています。物事や人に対して「こうあってほしい」とか「そうなるはず」と思うことは誰でもあります。誰にでもそれぞれの経験や過去の感情に紐づいたアサンプションがあり、それを突き詰めて振り返り自らのマインドづくりの源泉にしていくことが結果的にリーダーシップの発揮につながるというものですね。

だから私は、リーダーの方がメンバーに関わる際には、「何を考えているか?」という質問では足りないと思っています。その人の根底にあるアサンプションや想いにリーチするには、「感情」について聞かなければ真の意味で人のことは分からないんじゃないかと思っています。

綱場さん: 自分自身に対してもですよね。まさにセルフアウェアネス(自己認知)ですね。



陳腐化する知識より、他人を通じて結果を出す

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綱場さん: ノバルティスの文化の中にあるUnbossed:アンボスの考え方は、非常に普遍的な考え方です。グローバルのCEOもよく話していますが、この4000年来変わっていない考え方で、例えば荘子などが言っている考え方がおそらく角度を変えて今に至っている。EQも一緒で、いろんな会社や心理学者が言っているけど、本質は「リーダーには情緒や感情を知り、コントロールすることが非常に重要だ」と言っているんですよね。

会社で働いていて職業人としてやっていく中で、知識は本当に陳腐化していきます。リズ・ワイズマンというオラクルの元幹部の方が書かれている『ルーキー・スマート』という本があるんですが、その本に知識集約型の産業では、覚えた知識は1年経つとその30%が陳腐化する、とあります。ということは計算すると5年後には15%しか役に立たない。知識習得は本当に今の時代は必要性が減っていて、それよりも周囲にいる必要な知識をもった人をどうやって巻きこむか、他人を通じて結果を出すかとか、そちらの方が非常に重要になっていますよね。でも企業の教育やトレーニングは基本、知識詰め込み型なんです。IQのところはすごくやるんだけど、EQのトレーニングなんて一切なかった。

池照: そうなんですよね。

綱場さん: やはり成功する人々の90%はEQが高いと言いますよね。ノバルティスに限らず、日本で普通に大きな会社に入られている方は、知識レベルはある一定以上です。だからそこは別にトレーニングしなくても良くて、本来だったらEQのトレーニングをやった方が良い。今回、ノバルティスでもUnbossed:アンボスを中心に企業文化の浸透にフォーカスした組織づくりをしています。

だからEQのトレーニングについては、ノバルティス内ではEQという名前ではなく、アンボス、リーダーシップ・ジャーニーなどの形で実施はしていきますが、これから全社員向けにやります。本当にそこは注力していますよ。

池照: なるほど。2011年くらいから私も本格的にEQのトレーニングを提案させていただき、ノバルティスの中でもすでに数百人の方々がEQに関連するトレーニングを受講済です。EQの大きな特徴は、「感情」は人間誰もがもつ標準装備だということ。そしてもう一つは、この感情を知性としていかすEQは大人になってもトレーニングにより磨き、高めることができるというものです。もちろん、EQを高めることが最終ゴールではありません。あくまで大きな目的に向けて誰もがもつ感情をいかすこのトレーニングを、ノバルティスの文化浸透やリーダー育成にもっと重ねていきたいですね。


営業現場で培ったエモーティブな共感する力

池照: ところで、綱場さんご自身はEQをどこでお知りになったんですか?

綱場さん: EQは、概念としては相当昔からあるじゃないですか。例えば心理学などをやっていたら出てくる。だけど強く意識し始めたのは、つまり「EQがスキルだ」と思い始めたのは、この業界に入ってからかもしれません。

例えば営業をやる時って、 EQはもう全てなんですよね。最初にアイスブレイクして、それからこちらが常に傾聴して、顧客からのいろいろな不平不満、いわゆるペインポイントを引き出す。そのペインポイントが果たして正しいかどうかをもう一度傾聴しながら確認をして、確認した後、そこに対して本当にそうだよねと共感していく。それは「エモーティブ(感情をともなった)な」共感がないとできない。「エモーティブ」って本当に鍵じゃないですか。その後にようやく知識が役に立って、うちの製品ではこうですよと、先ほど先生がおっしゃった患者様に対しては1日2回よりも1回投与の方が…という話になりますよね。

だから知識を出す前に、EQが最初にあるべきで、EQとIQはどちらも重要なんだけど、車が4輪じゃないと走らないのと同じということです。前輪と後輪がないとビジネスはうまく行かない。例えば前輪が知識・経験だとして、後輪がEQだとします。両輪揃わないと結果は出せない。特に現場での顧客対応をする方々が知識はあっても上手くいかないとしたら、往々にしてEQが不足しているんですよ。

知識がある分喋っちゃうから、結局相手のニーズが分からないまま言いたいことだけを言ってしまう。顧客からしたら「こいつは何のために来たんだ? 自分のニーズや求めていることに対応していない」となる。というのが、私が営業を経験している時に感じたことで、今も時々思い出しています。


企業文化は個人の意思決定と行動から

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池照: そうですよね。EQのトレーニングは何も難しいことではないと思っています。感じる、考える、発信するといったいつもやっている思考と行動を、描く成果に向けてその順番を工夫したり、意識の向けどころを変えることもトレーニングです。つまり、自分の意識と行動に意図をもって決定していくこともそうなんですよね。以前に綱場さんが「ディシジョンメイク(意思決定)する人が、文化を変えていく担い手になるんだ」ということをおっしゃっていました。

綱場さん: 一応、私の信念は「ウォーク・ザ・トーク(有言実行)」。率先して自分がやるということです。例えば私が育休を取ったのもその一つ。制度は簡単につくれますが、育休は義務化したからといって文化として定着しません。制度をつくっても、制度を活用できるだけの社風をつくれるかどうかは本当に難しくて、それをしようと思うと義務化するだけではつくれないです。

例えばですが、育休の制度入れて、皆さんに2週間の休みを取りなさいって言っても、「うちの旦那は子供の面倒を見ずに、ゴロゴロTVを見てるだけ」っていう話、よく聞きますよね(笑)。そうじゃなくて、うちの場合は、14週間取るなら取ってもらいますが、その間はちゃんと子どもと向き合い、家事もしっかりとやる。そういう文化をつくることがすごく重要だと思っています。そのためにはやはり率先垂範して自分でやるのが最も説得力がある。

池照: 自分が働いている会社の理念や文化がどんなに素晴らしくて共感したとしても、毎日時間を過ごす職場の社風をつくるのは働いている一人ひとりです。社風をつくりだす人には2種類あると思っています。まずは、組織のトップである文字通りのリーダー、ノバルティスでいえば綱場さんですね。そしてもう一つは「自分をリーダーと自覚している人」です。役職やタイトルとしてのリーダーでなく、自分の仕事、役割を自律的にリーダーとしてありたい姿を描いて進める人です。その意味では企業文化と同時に、自分自身が「どんな人物でありたいか」「どんな組織にしていくか」を描いて自ら自分の感情を起点に動く、自覚あるリーダーが文化や社風をつくっていくんですね。それには、自分の気持ちや感情も含めて「どうありたいか」を描き、周囲を巻きこんでいくことが必要です。綱場さんの場合は、仕事場はもちろんですが、ご家庭でも「ありたい姿」を自ら決めて行動し続けているんですね。企業文化づくりは一人ひとりの文化づくりから、そんなことをあらためて気付かされました!


①社会人基礎力:「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として経済産業省が2006年提唱したもの
②ポータブルスキル:業種や職種が変わっても通用する、持ち出し可能な能力のこと。厚生労働省が提唱
③IMD:スイスのローザンヌに拠点を置くトップクラスのビジネススクール(国際経営開発研究所)


池照所感

綱場さんにお会いするにあたり、昨年のインタビュー記事*を事前に拝見しました。これだけの大組織でこのスピード感をもって変化を生み出せる秘訣は何か、そんな問いが自分に立ちながらお会いし、行動の基盤となっているのがEQなどを含むマインドセットにあると感じました。EQはコンピューターに例えるとOS(オペレーティングシステム)としてたびたび説明されます。いくら目新しい最新のアプリケーションを積んでいたとしても、基盤となるOSがアップデートされ機能していなければコンピューターはもっている力を発揮できないという例えです。これと同様に、リーダーの行動にもOSと同様に基盤となるマインドセットを常に見直し、アップデートし、その人としてのあり方を磨くことが必要です。綱場さんはまさに、このOSにあたるマインドセットを常に内省し、スキルとしての感情認知や他者への影響力をスキルトレーニングとして磨き続けていることが、スピード感ある行動発揮を支えているのです。ICUという文化基盤をベースに、ノバルティス社は今後も自らに変化を課す組織となるでしょう。事実、このコロナ禍において、ノバルティスは他社に先陣を切って在宅勤務をスタートし、また全営業所を撤廃するという変化を自らつくりだしています。誰も正解を知らない世界であるからこそ、変化を自ら作り出し、変化によって自らを高め続けることが期待されています。変化対応を超えて、変化創造へ。綱場さん率いるチームの躍進がこれからも楽しみです。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

*日経BP社ヒューマンキャピタルオンライン
自由度の高い働き方が、革新的な人材を育てる――ノバルティスファーマ綱場一成社長
https://project.nikkeibp.co.jp/atclhco/040500043/070300001/


こちらも是非ご覧ください。
ノバルティス ファーマ株式会社 大山尚貢氏 インタビュー
https://is-plus.jp/features/interview01-1
https://is-plus.jp/features/interview01-2


プロフィール

綱場一成
ノバルティス ファーマ株式会社
代表取締役社長

1994年東京大学経済学部卒業。2001年米国デューク大学MBA取得。米国イーライリリーにてセールス、マーケティング部で要職、同社日本法人糖尿病領域事業本部長や香港、オーストラリア、ニュージーランド法人社長を歴任後、2017年4月、現職に就任



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