橋本賢二さん対談記事記事 第1部

第1部

働き方は選択か創造か?

〜人生100年時代に必要なこと(全2回)〜
【前編】働き方改革は会社じゃなくて個人のもの
写真

多くの企業で「働き方改革」が取り組むべき優先課題として掲げられ、さまざまな取り組みが試みられている昨今ですが、働き方改革を実現するための決定的な力点とは何なのでしょうか?

人生100年時代のキャリア形成において、私たちは今後どのような働き方を選択、または創造していけば良いのか。その時に必要なこと、大人が学び直すべきこととは何か。従来のスキル習得やキャリアアップのセオリーに留まらない、視野と行動が必要なのかもしれません。

経産省の産業人材政策室で室長補佐も務め、現在は人事院にて国家公務員の採用に携わりながら、各地の教育関係者や企業の人事担当者にキャリア教育に関わる講演も精力的に行っている橋本賢二さんと、弊社代表の池照が対談しました。その内容を、前後編に渡ってお届けします。

そもそも、働き方の主語は「私」

写真

池照:最近、毎日と言ってもいいほど耳にする「働き方改革」ですが、働く時間や休み方ばかりが取り上げられてしまいます。働き方には時間だけでなく自らの仕事をどう定義づけるかも含まれると思います。公務員というお立場で人事の世界に長年身を置いていらっしゃった橋本さんは、どのようにお考えですか?

橋本(敬称略):理想的には、仕事は自分の自由にできるもののはずですよね。「働き方改革」は、与えられるものじゃなくて、自らつくっていくものだと思います。与えられるものという発想でいる限りは、労働は苦役にしかならないんじゃないかな。

池照:働き方は自らつくる。確かに!でも私自身、自分が会社員だった頃は、そんなこと全く考えていませんでした。働き方も含めて、仕事は会社から言われた通りにやるものだと思っていた。それが、子どもができた時にあらためて「働き方」は自らがどう生活したいかという「生き方」の選択なんだと気づきました。

橋本:私もそうでした。教育にも関心があったので、子どもが生まれた時に「関わらなきゃ父親にはなれないな」と思ったんです。まずは早く帰ることを目指して仕事のやり方を変えました。それまでは「100%やらなきゃ」「ここまではやらなきゃ」と思っていたものが、「80%でも意外と超えられるぞ」とか「60%の段階で上司と擦り合わせた方が早いぞ」と気づき、際限なくやる所から、限定した時間で効率的にどれだけできるかという行動に変わりましたね。一度割り切れると、子どもと接する時間が長くなるにつれ、切り上げる度合いがどんどん大きくなりましたが、ダメならダメだと叱られるので(笑)そのラインを自分の中で考えながら働き方を探しました。

池照:役所の中には、そのような考え方の先輩は既にいらっしゃったんですか?

橋本:雰囲気はありました。既に「働き方改革」と言われ始めていたし、古い体質をそろそろ変えなきゃね、という機運がようやく生まれ始めた頃で。

池照:私が17年前に外資系の製薬会社に入った頃、息子はまだ1歳に満たない赤ちゃんでした。入社時に17時で退社をする働き方を希望したのですが、当時はまだ入社直後に適用できる時短勤務制度がなく、オファーのあった正社員だと18時まで勤務しなければならない。そこで、私は子供との時間の確保をするために正社員でなく契約社員として17時まで勤務という働き方を選びました。実は、この会社への入社のミッションの一つが「時短制度などを含むよりダイバーシティ(多様性)な人事制度の構築」だった私としては、ワーキングマザーとして自分でいくつかの働き方に挑戦したいという意図もありました。お給料は下がり、その他の条件も正社員より下がりましたが、私としては自分自身がこのケースに挑戦できることがありがたかったですね。ただ、この会社では“契約社員=正社員のサブ的な位置づけ”が当たり前の状態になっており、「池照さんは契約社員なのに、なぜこの会議に出ているの? なぜ海外出張に行くの?」という社内の反発の方が激しかった。そんな反応に出会うことや、正社員や契約社員という働き方の選択で人の能力が限定視されてしまうことなどは、私にとって新鮮な驚きや葛藤でした。働き方の選択が、人の能力やスキルまで制限をかけたりすることもあるんだなと。

橋本:そこはまさに、会社側にもどうにかしてほしい所ですね。

池照:現在はもっと柔軟な状況になっているとは思いますが、働き方改革と言われていながら、個人の意識がまだ変わっていない所がたくさんあるような気がするんです。正社員でいれば定年(60歳)まで雇用してもらえる、会社にいさえすれば時期が来たらそれなりのポジションになれる、幻想みたいな話です。形としての働き方は選択できても人々のマインドセットのチューニングは変わってない、その弊害が最近出てきているようにも思います。

橋本:賃金は伸びていくものだ、自然と出世するものだ、みたいなことが前提になってしまっていると、かなり危ない。そうじゃなくなっている会社も既に少なからずあるのに、他人の会社の話だから自分事になっていないんでしょうね。


自分の働き方に基準(モノサシ)をもつ

写真

池照:働き方の選択を自分事にできない、マインドのチューニングが追いつかないという点はどのようにお考えですか? 一人ひとりとお話をすると変化への危機感や展望を持っている方もいらっしゃいます。ですが、多くは会社という組織に入ると思考停止状態に陥りがち。

橋本:おそらくまだ実害が及んでいないからでしょう。とても快適なんです。外が騒がしいという危機感はあったとしても、自分に被害がないから慢心がある。会社はむしろそこに危機感を持っていると思います。ぶら下がり志向は困るんですよね。

しかし会社も、組織として本当に危機感を持っているのかというと怪しい気もします。人事が流行に飛びついているだけの可能性も高い。会社も従業員も、どちらも当事者になり切れていないのかもしれません。

池照:「一人ひとりがいかに自分の基準(モノサシ)を持てるか」ということに、今は個人も会社もチャレンジしているんだと思います。

橋本:自分で自分を評価することが難しいんですよね。会社からの評価をすごく気にするじゃないですか。でも究極を言うと、会社からの評価より、自分にとってそれが幸せかどうかなんです。会社で出世することが幸せなら会社からの評価を求めればいいし、関係ないと思うのなら並の評価でも気にすることはない。ところが、人の眼や周りとの関係の中で自分というものを意識してしまって、逆に同質化してしまう。それがポリシー(定義)だと勘違いしてしまう。

でも本当は、評価は自分が決めるものだから、会社があなたはダメだと言っても自分なりにパフォーマンスを出していると思うならそれで良い。それを評価してくれる別の会社やフィールドに行くという選択ができるわけです。


モノサシは会社の外にもはみ出していい

写真

池照:私自身は20歳代の外資系の企業で採用をしていた時に、会社外の活動に目を向ける機会に触れたことがその後の“自分の基準(モノサシ)”に影響しました。外資系の企業で採用活動しているので、該当するポジションについては日本人も外国人も候補者としてお会いする機会があります。外国人の候補者に「社外での活動は何かされていますか?」と質問すると、「子どものサッカーチームのコーチをしていて、そこでは学ぶことがとても多くて…」とものすごく嬉しそうにコミュニティでのボランティア活動が自分の仕事にもプラスになっていることを語ります。ところが、日本人の候補者に同じ質問をすると「家や地域のことは全て妻に任せていますから、私は会社の仕事に集中できます!」とおっしゃるんですね。
もちろん、社外の活動の有無で採用が決まる訳ではありません。ですが、その人が会社だけでなく、社会に視点を向けてて活動し、その活動をキャリアのプラスにしていることは理解できます。私自身はこの時の外国人の方々の社外活動をイキイキと語る様子に触れ、単純に「社会視点をもって活動する彼らはカッコいい!」と思いました。と同時に、「私は会社という小さな基準(モノサシ)の中だけで活動していた」と自分の視野の狭さを感じたんです。自分自身の人間的な力を広げるなら、社外の活動も含めて自分のモノサシを大きく作り変えることが自分を大きくするかなと感じました。この気づきから、私自身もNPO活動などへの参加を始めました、会社人から初めて社会人になろうと気づかせてもらった体験です。

橋本:所属先の価値観で認められることが価値になってしまっているんですよね。「自分が社会や人に何ができるのかというマインド」と、「自分が所属しているものへの忠誠心」の違いのような気がします。

池照:組織の内向き視点から一歩外に出れば、組織の枠を超えた活動も自分をつくる大切な要素として自分を計るモノサシに取り入れることができます。それが自分基準(モノサシ)を大きくするにつながるんじゃないかと思います。当たり前ですが、社外のコミュニティで役割をもって活動できる人は、結局は自分自身の役割を定義してリーダーシップを取れる人、人を惹きつけ、巻き込める人でもあります。

橋本:それがいわゆる「越境学習」ですね。副業している人は賃金効果が高いという記事が日経に出ていましたけれど、それがなぜかと言うと私の中では、越境している人は経験値やフィードバックの受容性が高いから、人間性がある意味高くて、それが結果的に評価されて賃金率が高いのかもしれないと思うんです。明確な研究結果は分かりませんが。

越境して他のコミュニティに行っている人は、経験に対する内省の質が良く、かつ会社だけではない多様なフィードバックをもらえる。それを自分の中で消化して統合することができているんじゃないかと。そういうマインドセットがあるから、副業している人が出世しやすいのではと仮説として思っています。メタ(高次の)な世界から、俯瞰的に自分に何ができるのかを考えられるのではないかなと。

池照:そうですね。最初は本業に対しての“副“という位置づけの副業だったものが、いつしか相乗効果を生み出す複数の仕事になっている方もいらっしゃいます。会社業務への貢献としての副業から、会社を超えて社会への視点をもつこともできる。働き方だけでなく、自分自身の”働く“を自ら変えていくことで可能性が広がりますね。

*副業:本業以外の仕事や活動(ボランティアなども含む)
**複業:複数の仕事を掛け持ちするパラレルキャリア

池照のまとめ

  1. 「働き方」を選ぶことは、どう生きるか=「生き方」を選ぶこと
  2. 自組織から一歩外に出る越境が自分のモノサシを大きくする
  3. 「働き方改革」の主語は会社でなく「私」である

しみじみと所感

橋本さんとキャリアの話で盛り上がったのは確か昨年の秋でした。「働き方改革」が政府や会社主導で語られることが多い中、これはそもそも個人としての「I(私)メッセージ」がそこにないことが違和感という話で盛り上がったことをとてもよく覚えています。「働き方」も「生き方」も本来誰かに決めてもらうものでなく、自分で選ぶものであり、もしくは創るもの。そして実際に選び、創るための材料が増えた今、何からスタートしてよいか、なかなか手も足も出ない人も多く、私も日々たくさんのご相談を受けます。人のキャリアに長年関わっていますが、今ほどWhat(何をするか)に加えて、How(どう働くか)を悩むことはこれまでなかったでしょう。これまで誰かが決めてくれた働く理由や意味を誰もが自分で見つける時期が来ているのです。このテーマについては、NPOの活動がきっかけで知り合い、何度かキャリアのお話で盛り上がった橋本さんと意見を交わしたかったのです。
公務員でありながら「キャリア教育研究家」としても活動する橋本さんは、自らが活動の幅を広げ、自らがライフイベント(子育て)に主体的に関わることを実験的に試され、自分の言葉で発信されています。その発信がまた私のような好奇心の高い人間と対話を重ねるごとに共創的に新たな視点や考えを生み出し続けています。自らを実験台として常に新たな視点や考えを打ち出していく協創実験家でもあります。今回の対談は、彼の協創実験の一つになれるなら幸甚です。
この協創実験的な対話は後半に続きます。後半では、人生100年時代と言われる中で、どうやって自分の人生をデザインして選択・創造していくか、実際にどのようにマインドやスキルを伸ばしていくのかを掘り下げていきます。
ぜひ、後半もご期待下さい♪


【後編】100年生きる時代の必要なポータブルスキルとは?(2020年2月公開予定)

すべての特集記事を読む

プロフィール

橋本賢二
2007年人事院採用。国家公務員の採用試験の見直しや国家公務員の給与を改定する人事院勧告のとりまとめ担当を経て、2015年から経済産業省に出向して産業界の成長に資する人材育成に関する施策を担当。現在は人事院に戻って採用を担当するとともに、各地で教育関係者や企業人事担当者に向けて、キャリア教育の重要性やこれからの働き方に関する講演もしている。

※橋本の発言は個人としての見解であり、所属する組織の見解とは全く関係ございません。