第2部
自発的に成長し続ける
人材・組織をどうつくる?
比較でみる、マネジメント機能不全の対処法(全2回)
【後編】成長に効くのは組織の意図的な同質化か多様化か?
先が読みにくい時代に自己革新し続ける自律性と復元力のある組織をつくるために、ダイバーシティへの取り組みを進める企業も多いなか、ジェンダーや国籍など特性の多様性だけでなく、「知見の多様性」を確保することが重要です。組織の同質化と多様化のバランスや有効性について、株式会社ベーシック 代表取締役 秋山勝さんとお話ししました。
同質化させた先で多様化する
池照: 欧米の企業にいると、完全に社内は価値観を同一にする人の同質化集団なんですよ。その企業理念やクレド(行動規範)を全員が空で言えるくらい。ただその同質化された人たちの中で、属性はもちろん視点や意見の多様化を進めるんです。
秋山: 僕も今、それがベストだと思ってます。
池照: 秋山さんが考える「同質化」というのは、どんな事ですか?
秋山: やはり会社組織は達成したい目的があっての集団だと思っています。だから、会社のビジョン、ミッションに共感できていることが大前提。その上で、純粋に役割として求められる行動に対して意義なしで同質化していきたいんですよ。なぜかと言うと、それがワークすればちゃんと目的が達成されるという、僕の中での想いと設計があるんです。行動の原理原則が揃っていること。うちの社内で言うと、当たり前に挨拶をするとか、当たり前にリーダーシップをとるとか。他社だと、服装を揃える、などもそれに当たりますね。共通言語を持つことも重要です。同じ言葉を使って話をする、ワーディングを揃えるといったことです。
池照: 会社で進めている同質化のための取り組みとしては、何をなさっているんですか?
秋山: クレドの共有、マネジメントのテスト、スキルのテスト、業務のフレームワーク化などです。
池照: 社内で同質化を推進することに対して、どんな期待があるんでしょうか。
秋山: 会社として成し得たいビジョンがあり、みんなの意識や行動が分散していた過去の状況のままだと、それは実現されないと思ったからです。当時はそれぞれの行動原理を尊重していたんですが、それがみんなの「迷い」を生む原因にもなった。だから、目的達成のために同質化すべき所をしっかり決めることが重要だと。逆に、それ以外は何でもいいとも言えます。ここを決めたことで多様化という所がより見えてくると思ったんですね。
多様化とは、強みに立脚して働ける組織づくり
池照: これまで推進して来た「同質化」という、社内の目線合わせ、方向合わせを経たうえで、これから秋山さんが目指す「多様化」というのは、どんな事でしょうか?
秋山: 僕は、一人一人が自分の強みに立脚した働き方ができる組織づくりだと思っています。強みというのは、スキルと才能ですね。理想の状態としては、それぞれが強みを生かした役割を与えられ、みんなが自分の存在意義を感じ、自己肯定できる状態で働けている組織であることです。
池照: 「強み」なんですね。
秋山: 強みに立脚していると、自信を持って働けますよね。そうすると、「次の挑戦もできる」→「成長が促される」→「組織が成長する」→「組織としてできる事も増える」→「より機会提供ができる」、というふうに、健全な循環が生まれるわけです。これを創出したいんです。その結果、安心して働ける組織、会社になると思います。
池照: それをどのようにして実現しますか?
秋山: その手法については、まだまだ模索中ですね。強みの発見にしても難しいのは、本人の自己意識と他者評価がずれている場合も結構あること。自分の目が届く規模だった時には、とにかく対話を重視して理解していましたが、それを今後は仕組みに落としていかなくちゃならない。手法は今後の課題ではありますが、例えばダイナミックかつカジュアルに人材配置や異動ができる組織にしたいと思っています。実際やってみないと分からない事も多いので、トライ&エラーをたくさんできる環境を作りたい。そのためには、「トライ&エラーが当たり前」という社内の意識醸成も必要ですね。
池照: なるほど。私自身は着目しているのは「強み」も含めたそれぞれの「らしさ」なんです。一人ひとりが自身の育ってきた環境やアイデンティティがあり、そして強みと同時に弱さも自分で認めて、そこにちょっとした仕事のこだわりがブレンドされたものが「らしさ」かなと。それぞれの「らしさ」自体が仕事をする上での「強み」になっていく。だから「らしさ」を認めることが組織の多様性だったりするかと思っています。イメージは、女性らしい、とか◯◯会社らしいとかではなく、「秋山さんらしい」とか「池照らしい」と個別の名前で互いが認識して互いをいかそうとする組織ですね。これが組織の多様化につながっていくのかなと。
秋山さんのおっしゃる「多様化」、つまり自分の強みを生かした働き方をみんながするようになる事で、組織としてはどんなインパクトがあると思われますか?
秋山: 自分にその強みがあるのであれば、その人がすべきだし、組織をより良くするために、その強みを全力で行使する義務が一人一人にあると僕は思っています。 個々が強みに立脚して働くことができれば、問題解決できる幅も広がっていきます。そうやって一緒に問題解決できる仲間が増えていったら嬉しいですね。
池照: それにはまず、一人ひとりが自分の「強み」や「らしさ」について誰かから言われるのではなく、自分で感じて考えて発信しながら見いだしていくことが大切ですね。組織でしかける対話からの発見も必要ですが、対話って誰からでもスタートできる。組織の中で誰もが自分だけでなく、仲間の「強み」や「らしさ」を意識していかすことが、結果的に組織の「強み」や「らしさ」につながっていきますから。
2月に引き続いてのお話。本当にうかがってよかった!今日は、ありがとうございました!
池照のまとめ
同質化と多様化のバランス → 共存
- 同質化させるのは、組織の行動原則を揃えること。一人ひとりがそれぞれの行動原理によって意識や行動が分散していては会社として得たいビジョンの到達は実現できない。
- そのうえで、一人ひとりが「強み」に立脚した働き方ができる多様性のある組織を目指す。同質化と多様化はバランスよりも共存を目指す
「強み」や「らしさ」は自分ゴトで自らいかす
- 「強み」や「らしさ」の発見は組織の対話、人材異動などを通してそれこそ多様な手法をトライ&エラーを続けることで見いだす。
- 自分の「強み」や「らしさ」を自分ゴトで捉え、自らいかすことで強い組織の成長につながる。それが組織の「強み」や「らしさ」につながる。
プロフィール
秋山 勝 氏
株式会社ベーシック(https://basicinc.jp/)
代表取締役
1972年2月7日、東京生まれ。高校卒業後、企画営業職として商社に入社。1997年、株式会社グッドウィルコミュニケーションにて、物流倉庫の立ち上げ、EC事業のサービス企画を経験。2001年、トランス・コスモス株式会社に入社し、Webマーケティング関連の新規事業など数々の事業企画を手がける。2004年に株式会社ベーシックを創業。「Webマーケティングで世の中の問題を解決する」をミッションに、国内最大級のWebマーケティングメディア「ferret」やオールインワンマーケティングツール「ferret One」、Webページ作成ツール「One Page」といったWebマーケティング事業や国内最大級を誇る「フランチャイズ比較ネット」などのメディア事業を展開。設立以降、50を超えるサービスを生み出し、10件以上のM&Aの実績を持つ。