第2部
大山 尚貢氏インタビュー
ノバルティス ファーマ株式会社 大山尚貢氏 × 株式会社アイズプラス 池照佳代
インタビュー記事第2部です。
- EQを磨く目的は社外&社内コミュニケーションの改善・向上
- To Do(やることリスト)からTo Be(どんな気持ちでありたいか)にフォーカスする
- 仕事の成果<人生の質を高めるEQトレーニング
One Novartisの一体感
池照: 次に、EQを高めることによってMSLの方々の仕事にどのような効果を期待されているのか、お伺いしたいと思います。
大山: 第一に、外向きのコミュニケーションの改善です。実はドクターに提供する情報のほとんどはインターネット上にあるんですね。ではなぜMSLが要るのでしょうか。人が介在してディスカッションすることによって、顧客に対してより良く伝わることを目指しているわけで、ここがとても重要です。
第二に、社内コミュニケーションの改善です。先ほどお話したように、メディカル部門にはさまざまな経歴を持った方たちがいて、その中で相互理解を深めていかなければなりません。EQ研修を通して自分を理解し、改善のための行動指標を決めて共に取り組むことが「One Novartis」としての一体感につながっていくのだろうと思います。
池照: 研修の冒頭で必ず、皆さんが今抱えているコミュニケーション上の課題を書き出してもらい、シェアする時間を取っています。その際にもやはり、他部署とのコミュニケーション不足や思い違いへの課題意識は出てきますね。
大山: そうですね。お互いの役割はルールで決まっていますが、それでも課題が出てきてしまうのは、信頼関係の部分もあるでしょう。EQが信頼関係を築くひとつのきっかけになればいいなと思います。
TO DOからTO BE へ
池照: MSLの方々は、基本的には対人問題の解決力が高く、顧客の課題を解決する積極的な姿勢を持っています。ただ、それをto doで解決しようとする傾向があります。つまり、情報や課題への処方箋の提供ですね。そこに、相手の気持ちに寄り添うEQの視点を加えてほしいのです。顧客の気持ちに共感し、この先どういう気持ちになってほしいかをイメージする力をつけていただきたい。「To doからTo Beへ」と呼んでいますが、もともと対人関係の解決力の高い方たちがこの力を身に着けたら、飛躍的に顧客への貢献度が高まります。
大山: それは大切ですね。でも、どうしたら共感力を高めて行けるのでしょう。
池照: 例えば、4年前のプログラムでも実施した組織的な開発の一つに、会話の中で1回、間を取ってみる、というものがあります。間を取ると相手には、自分の話をちゃんと聞いてくれているという共感が生まれます。ある意味テクニックですが、共感しているがそれが相手に伝わっていない方には効果的です。私が今描いている夢は、ノバルティスのメディカルの皆さんが、プロフェッショナルでありながら“気持ちに寄り添う言葉がけ”の達人になっている姿です。
大山: 気持ちに寄り添う言葉がけですか。
池照: よく「ToDo(やることリスト)からToBe(どうありたいか)リスト」への転換という話をします。仕事においてのやることリストは必要ですが、自分自身がどのような気持ちでありたいか、どう顧客と向き合いたいか、どんな感情を共有したいかということを考えるという意味です。そして、人の気持ちに寄り添うには、まず自分を知ることが重要です。自分が今、どんな感情や気持ちで仕事と向き合っているのかを知る。自分の気持ちや感情に着目しなければ、相手や周囲の感情にはアンテナがたちません。次に、もう一つ大切なのが、相手を知ることです。例えば具体的な行動例ですが、資料ばかりに視線が行って相手のことを見ていない方は結構多いです。そこに気づいてもらって、顧客との目線の合わせ方や相手に集中する時間を一定時間とることも、気づきの一つになってきます。
テーマを絞った取り組みも
池照: 今後についてお伺いします。今回の研修は今年春にはいったん終了しますが、その後はどのように活かしていくお考えですか。
大山: 継続的な改善活動をしていきたいですね。以前メディカル部門のプログラムで実施していたような、自律的な活動の継続が理想です。ただ、今回の受講者は約160人と多いので、全く同じやり方では難しいでしょう。内部のチームで継続できるのか、外部のインストラクターにその都度入ってもらうのか、方法論はまだ分かりませんが、いずれにせよワンショットで終わらないようにしたいと思っています。
池照: ありがとうございます。受講された方からも継続のご希望は伺っています。2,3年ごとに自らの行動を振り返り、気づきを得る意味でも継続が有効だと思います。
既にEQ研修を実施された他社の事例でも、ほとんどは毎年継続してフォローアップに入っています。ただし、初年度のような内容を繰り返すのではなはく、EQそのものについてはすでにベースを持っておられるという前提で、テーマを絞って実施しています。例えば、EQを通してリーダーシップの開発に取り組む、またはEQを通してチームビルディングやダイバーシティにつなげる、などです。これらの各テーマを掲げ、事例やディスカッションする時間をとる展開です。
大山: どのように進めているのですか。集合研修ですか。
池照: やはり集合研修が多いですが、一部オンラインやピアグループを再度つくって相互コーチングを実施しているケースもあります。
大山: インストラクターがいなくても可能ですか。
池照: インストラクターはいなくても、各自の取り組みをシェアするなどの工夫で継続できます。社内でファシリテーターを養成している他社事例もあります。もちろん、EQをよく知っている人がいた方がいいですね。その点、ノバルティスにはすでにEQの専門家が2人もいらっしゃいますね。
大山: 社内の専門家も含めて継続研修をしていきたいですね。一番いいのは、一定のテーマに対して、意欲のある2,3人をファシリテーターとして養成し、ディスカッションを進めるやり方ではないかと思います。自分たちが普段、どんな取り組みをしていて何に気づいたかをシェアするだけで、取り組みの質が大きく違ってくるように思います。
池照: ぜひ、社内の取り組みをどんどんシェアし、相互的な気づきを広げていきたいですね。
大山: 研修を終えた後、何もしなかったら、思い出ボックスに入れられて風化しちゃうと思うんです。それを避けるための仕掛けは打たなければ。
武田: 夏までにはほとんどの方がEQ研修を受けていることになります。例えばランチなどのタイミングで、フォローアップのアクションがあってもいいかもしれません。
質のKPI
大山: 成果が見えてくるのは、これからだと思います。ちょうど今年、メディカル部門の活動の質を評価するための *KPIを導入しようと考えているのですが、その基準をつくるのが難しい。単に何回訪問したかということではなく、相手にどれだけ伝えられたかが試されるので、すごく大事になってきます。
池照: 質のKPIを図る場合、何を評価していこうとお考えでしょうか。
大山: 顧客の何が変わったかですね。行動が変わったとか、意識が変わったとか。そこを重視していることを打ち出したいと思っています。
池照: EQプログラムの特徴の一つは、お客様の応対や関係の質を表現するときの共通言語が組織内にあるということです。例えば、ノンバーバルな部分でお客様が変わったというのは、具体的にどういうことを指しているのでしょうか。目を見たとか仕草が大きくなったとか、うなずきが大きくなったとか、笑顔をすごく増えたとか。これまでは、感覚値でしか測れないことがほとんどででした。ですが、EQI検査で「行動の量」が数値化されることである程度の客観的なものさしができます。たとえば、表情やしぐさの変化といった自分が発信するノンバーバル行動が低いときと、増加した時で顧客の反応の何が変わるか、ある程度客観的かつチームに共通言語ができることが質の成果につながります。
大山: 具体的にどんな行動をしたら何が変化したのか。単に、相手に話したというだけでなく、どう話したのかという行動のレベルまで具体化させることが大事ですね。メディカル部門には興味レベルが高い方たちが多いので、感触はいいです。ただ、どの段階で変化を感じられるのでしょうか。
池照: もちろん、すぐには難しいです。人間の行動変容はおおよそ100日で定着すると言われています。これを行動変容開発のツール「*ほぼ100シート」で実践していただいています。
大山: これからは、対面ではなくwebを使った社内外のコミュニケーションがますます増えてきますので、webでもface to faceに近い線までパフォーマンスを上げたいと思っています。EQはそうしたコミュニケーションにおいても、とても役立つと考えています。
池照: 自分の感情に目を向け、自分が大切にしている感情、思考、コミュニケーションをマネジメントするのがEQワークです。オンライン上のやり取りにちょっと気持ちや感情を取り入れることで、リモートで仕事をする環境でも心の距離感をマネジメントすることに役立ちます。EQは仕事の成果はもちろんですが、人生の質を上げるものですから。
* KPIとは Key Performance Indicator 業績や成功の度合いを示す指標
* 「ほぼ100シート」とはアイズプラスのEQワークにて使用する開発管理ツール
池照: 今日はお時間をいただきありがとうございました!
私はアウトドア派なのでぜひ次回はオフィスを飛び出し、みなさんと鎌倉あたりでセッションをやりたいですね。おいしいお食事でも食べながら(笑)。
大山: 私はインドア派なんで、美味しい部分の参加だけで(笑)ありがとうございました。
プロフィール
大山 尚貢 氏
ノバルティス ファーマ株式会社
メディカル本部 執行役員本部長
医師・医学博士・経営学修士
循環器内科医として約8年間、大学病院や一般病院で勤務。医学博士取得後、Harvard Medical SchoolにPost-doctoral fellowとして勤務。その後、製薬企業での勤務を開始。転職後グロービス経営大学院にてMBA(経営学修士)取得。ノバルティス ファーマでは、メディカル部門のトップとして、臨床医やノバルティスのグローバルとコミュニケーションを取る一方、マネジメントにも力を入れている。
武田 達樹 氏
ノバルティス ファーマ株式会社 メディカル部門で事業推進を担当(インタビュー時)