大山尚貢氏 インタビュー 第1部

第1部

大山 尚貢氏 インタビュー

ノバルティス ファーマ株式会社 大山尚貢氏 × 株式会社アイズプラス 池照佳代
インタビュー記事第1部です。

EQの導入~ノバルティス ファーマ

大山尚貢氏インタビューノバルティス ファーマでは現在、メディカル部門の約160人の方々にEQ研修を受けていただいています。会社全体では、国際的に汎用性の高い人間力を育てるという視点から、他の部門を含めすでに700人もの方がEQ研修を受けられたことになり、その共通言語を部内だけでなく社内横断的に生かせるという新たな利点が生まれてきます。今回、ノバルティス ファーマ メディカル本部の本部長 大山尚貢さんにEQ分析の結果のご報告に伺うのに合わせ、あらためてEQ研修を導入した目的や他の研修との関わり、さらにはフォローアップを含めた今後の展開の可能性についてお話を伺いました。

  1. 「感情x行動=EQ検査」で自分とチームの力をいかして磨く
  2. 個と組織の両方のデータ活用から“サイエンスを顧客につなぐ”コミュニケーションを実現する
  3. 「婚活成功」に見る、人生の質を上げるEQトレーニング


「行動」に着目

写真は組織分析のサンプル
写真は組織分析のサンプルです

池照: 本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。
まず、先日実施した御社のメディカル部門の方々を対象としたEQ組織分析の結果からお伝えします。* MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とMSL以外の方の2つの集団をそれぞれ組織分析したものです。
 EQI(行動特性)検査は、EQを開発するためのツールで、EQを発揮した結果としての「行動」に注目しています。各項目で出ているスコアは、日本の約26万人弱のビジネスパーソンのデータを基に5段階評価と偏差値で表しています。

大山: 100点満点ではないのですね。何か傾向は見えてきましたか。

池照: まず、それぞれの集団の特徴をみていきましょう。MSLの方々の高いスコアを示した特徴を見ていくと、自己肯定感をもって仕事に取り組み、エネルギーやバイタリティが高く、クライアントが抱えている課題を積極的に解決しようという行動も高いことがわかります。
一方で、行動の量が少ない項目としては、“情緒的表現性”があります。これは喜怒哀楽、つまり自分の気持ちをあまり言葉で表さない傾向を表しています。もう一つは、“感情的温かさ”という項目ですが、これは冷たい人間だという意味ではありません。温かさを示す行動が少ないということです。メディカル本部の業務は、サイエンスを取り扱うことが多いので、その影響で業務の間は情緒や感情といった要素を表現することが少ないのかもしれませんね。また、周囲の感情に惑わされず、自分の役割を比較的淡々とこなしていく姿も見受けられます。いかがでしょうか?
これはあくまで組織分析であり、全項目のスコアを引き上げてチャートを丸くしていくことが目標ではありません。個人レベルで、自分がこうありたいと思う姿を認識し、現状とギャップのある部分の行動を開発していくのが、今回の研修のねらいです。

* MSL(メディカルサイエンスリエゾン)とは、医薬品の販売活動を中心とした部門から独立した部門で、医学的、薬学的、その他科学的観点から、医師など医療分野の専門家である医療関係者等との情報交換を主な職務とする職種です。



どの項目も開発できる

どの項目も開発できる池照: MSL以外の方も、自己肯定感が高く仕事に向き合う姿勢があることは共通しています。また、目の前の人の感情的な動きに敏感で察する力が高く、自分で主体的に仕事を進めていく“自主独立性”の高さが特徴です。
一方で、“柔軟性”と言われる考え方や頭の柔らかさ、多様性といった部分は少し開発が必要です。ルールや既存の概念にこだわってしまう傾向があるのかもしれません。新しい考えや視点を受け入れ、新しいことにチャレンジするには、柔軟性が一番のポイントになりますから、会社のイノベーションのためには、組織として“柔軟性”を開発することが大切です。

武田: これが大山さんの分析結果です。

大山: 著しく感情が冷たい(笑)
 感情的被影響性は私も低いですね。別の分析を受けたときも、同じような結果が出ていて、バリデーションが取れているんだと感じました。それで、感情をもっと上手に出さなければいけないと努めているんですが…それは、努力することで変えられるんですよね?

池照: 変えられます。 これもEQ 特徴の一つですが、「EQは遺伝などの先天的要素が少なく、教育や学習、訓練を通して高めることができる」とEQ提唱者であるピーター・サロベイ博士、ジョン・メイヤー博士も発表しています。
 実際に、弊社のお客様やノバルティスの中でも、自分自身で開発目標を設定し、取り組むことで能力を大きく伸ばしている方がほとんどです。4年前のメディカル部門での取り組みでは、97%もの方が自ら設定した目標を達成されたんですよ。


「ありたい自分」へ互いにシェア

池照: 今回の研修では、「自分を知り、チームを知り、パフォーマンスを最大化させる」という目的を、大山さんから発信していただきました。そこで、まず個人分析をして、その結果から自分の行動の強み弱みを把握した上で、自分が開発したい項目を選び、* ピアグループの中でお互いにシェアする、というのが全体の流れです。
武田さんには1回目からほとんどご一緒していただいていますが、研修を通しての皆さんの変化は感じられますか?

武田: 最初の30分くらいは、研修に対して懐疑的な部分をお持ちの方もいらっしゃったと思います。これは、どの研修でもそういう傾向があるようです。でも1時間を過ぎた頃にはそうした雰囲気がなくなり、自分のアセスメントシートが返されてからはよりスムーズに進んだように感じました。部内でも、いい研修だと聞いたからぜひ受けたいとの相談があったくらいですから、個人レベルでは話題になっていたのでしょう。

池照: 今回、EQ研修を導入されたねらいは何だったのですか?

大山: 昨年、スイス・バーゼルの本社勤務から戻ってきたら、チームがすごく強化されていました。人数も増え、個々のレベルも上がっていた。一方で、組織の中には、元は* MRだったり学者だったりあるいは新卒だったり、多様な背景の人たちがいます。それぞれの力を見極めて、社外に伝えたりチーム力を高めることで、個々の力をもっと活かすことができると思ったのです。
EQを開発することによって、サイエンスを顧客につなぐという直接的に仕事に活かすのはもちろん、自分をよく知ることでチームのパフォーマンスが上がるという間接的な効果も期待しました。

* 研修の中で作られる相互コーチンググループ

* MRとはmedical representativeの略で、医薬品の適正使用のためドクター等の医療従事者を訪問することなどにより、医薬品の品質、有効性、安全性などに関する情報の提供、収集、伝達を主な業務として行う職種。製薬企業等の営業部門にあたり部署に在籍することが多い。


継続可能なツールとして

池照: 以前からEQ についてはご存知だったのですか。

大山: 僕が着任する数年前に、メディカルの中の1部門でEQを導入されていたことは知っていました。導入をリードしたリーダーの方からは、この部門で顧客満足度が高く維持できているのはEQトレーニングが定常的に続いているからだ、という話を聞いていました。トレーニングによって、みんなが能力を底上げでき、マネージャーがさらに成長していることが、* 数々の賞を取った要因のひとつだという話をされていたのです。

池照: ノバルティスでは以前、未来新聞という、3年後に自分たちはどうありたいかを描くアクティビティを行っていて、その企画に私も入らせていただいていました。その時にこのリーダーの方は、自分たちが顧客対応のナンバーワンになるという目標を未来新聞に書いたのです。その後、「本気で1番になりたいのだけれど、どうしたら実現できるのか」とご相談いただきました。
伺ってみると、知識やスキルに関する研修は十分に実施している。ただ、ひとつ私が気になったのは、お客様からのコメントでした。それは、「対応は非常に正確だが人間味が感じられないことがある。まるで機械と話しているみたいだ」というものでした。そこで、ひょっとするとEQが有効ではないかと考え、プログラムを提案させていただいたのです。スタートから4年かけて段階的に導入し、皆さんが「自分の感情と顧客の気持ちの両方に向き合って変化する」という目標を少しずつ実現されてきました。さらに導入の翌年には、未来新聞に書かれた通り、見事に外部コンテストで1位を取得されたのです。すごいですよね。

大山: それで調べてみたら、個人データと組織のデータの両方が出ること、継続的にメンテナンスできることがわかり、魅力を感じたのです。アセスメントツールは他にもたくさんあって、もうみんな何回も受けているんです。でも一回限りのアセスメントでは、残念ながら結果を聞いて終わりになってしまうこともあります。EQはそうではなくて、フォローアップができるのがいいですね。


「会社のため」より「人生の質」

「会社のため」より「人生の質」池照: ありがとうございます。
 確かに、アセスメントツールには多くの種類がありますが、タイプ分類やそれに応じたアドバイスの提供というパターンのものも少なくありません。今回の行動特性検査の利点は、行動量を数値で図っていることと、すべての項目で能力開発の具体的なヒントを提供できることです。ビジネスパーソンにとって重要なことは、「自分を知る」だけでなく、ありたい姿に向けた「行動変容につなげる」ことが大切ではないでしょうか。

大山: 結果がデータとして出てくるのはいいですね。特にメディカル部門の方は数字が好きです。タイプ別に分類されるよりも、個人データがはっきりと数字が出た方が、興味を持って取り組んでもらえると感じました。
ビジネスだけでなく、プライベートな人間関係にEQが役立った人もいるみたいですね(笑)

池照: はい、実際に「婚活に役立てた」という実績事例も生まれましたから。おかげで、行政から婚活イベントのご相談もいただくようになりました(笑)
 私はEQと出会って10年になりますが、いつも研修で皆さんにお伝えするのは、会社のためだと思ってやらなくていい、ということです。自分の「人生の質を上げたい」と思うなら一緒にやりましょう、と。そして人生の質が上がれば結果的に、仕事でのパフォーマンスも上がります。

大山: 切り離せないですよね。

池照: ところで、ノバルティスにはバリュー&ビヘイビアという行動規範や、リーダーシップスタンダードなど人事面でのさまざまな価値基準がありますね。EQ研修や分析結果が、人事評価に影響を及ぼすこともあるのですか。EQとの関係をどうお考えでしょうか?

大山: 僕は全く別の立ち位置のものだと思っています。普段の業務は加点減点で評価しますが、EQは上司が評価するのではなく、結果のスコアによって優劣をつけるものではありません。それぞれに目的が異なり、機能していると考えています。


プロフィール

大山 尚貢
ノバルティス ファーマ株式会社
メディカル本部 執行役員本部長
医師・医学博士・経営学修士

循環器内科医として約8年間、大学病院や一般病院で勤務。医学博士取得後、Harvard Medical SchoolにPost-doctoral fellowとして勤務。その後、製薬企業での勤務を開始。転職後グロービス経営大学院にてMBA(経営学修士)取得。ノバルティス ファーマでは、メディカル部門のトップとして、臨床医やノバルティスのグローバルとコミュニケーションを取る一方、マネジメントにも力を入れている。


武田 達樹
ノバルティス ファーマ株式会社 メディカル部門で事業推進を担当(インタビュー時)